2023/7/28
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ランナーが悩まされる膝の外側の痛み~腸脛靭帯炎まとめ~ |
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┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ここでは腸脛靭帯炎の一般的な概要について私の考えも含めてまとめています。 【概要】 腸脛靭帯炎とはランニングをしている人に多くみられる症状でランナーズニーとも言われています。 ランニングやロードバイクなど膝の屈伸運動を繰り返すことや、急な切り返し動作、ジャンプ動作などを多くするスポーツをする方に見られるスポーツ障害です。 腸脛靭帯が膝の屈伸時に膝の外側(大腿骨)の出っ張っている骨の上を繰り返しこするような刺激により痛みとして現れます。 ≪詳しく≫ 腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)とは、スポーツなどをおこなうことで膝ひざにおこる慢性的な障害のひとつです。腸脛靭帯とは、腸骨ちょうこつ(骨盤を構成する骨のひとつ)の腸骨稜や鼠径靭帯などに起始する大腿筋膜の大腿外側中央部の肥厚した部分であり、脛骨けいこつ(すねの骨)の前外側部に停止する線維束で、膝の屈伸に伴い大腿骨の外側上顆がいそくじょうかを後方から前方へ移動します。ランニングやジャンプなど膝の屈伸を繰り返すと、大腿骨外側上顆との間で、機械的な刺激による炎症が生じ、痛みを感じることがあります。こうした症状を「腸脛靭帯炎」とよびます。腸脛靭帯炎の多くは、腸脛靭帯のなかでも膝の外側にある大腿骨外側上顆部かぶに起こるため、「膝の外側が痛い」と訴える方が多いです。 腸脛靭帯炎について/メディカルノートより引用 【症状】 膝の外側(大腿骨外顆周辺)痛みや圧痛が存在します。 ≪詳しく≫ 「大腿骨外顆周辺に限って圧痛が存在します(図)。腸脛靱帯は明らかに緊張が増し、時に靱帯の走行に沿って疼痛が放散します。初期はランニング後に痛みが発生しますが、休むと消失します。しかし、ランニングを続けていると次第に疼痛は増強して、簡単に消失しなくなってきます。」 ランナー膝別名腸脛靭帯炎/ザムストより引用 また前出のメディカルノートでは以下のように3つに分類して説明しています。 「多くの場合、膝の外側に痛み(ときには激痛)を感じます。重症度によって痛みの程度は異なります。 軽症:運動を行ったあとに痛む 中等症:運動自体は問題なく行えるが、運動中や運動後に痛む 重症:常に痛みを感じ、運動をいつもどおりに行うことができない さらに重症化すると立ちしゃがみや階段昇降時、歩行時にも痛みを感じるようになり、日常生活にも支障をきたすようになります。 また、場合によっては膝だけでなく、太ももや股関節にも痛みがあらわれることがあります。」 軽症:運動を行ったあとに痛む 中等症:運動自体は問題なく行えるが、運動中や運動後に痛む 重症:常に痛みを感じ、運動をいつもどおりに行うことができない ともありますが 大会などでは頑張り中や下り坂での激痛発症、そして歩くのも痛いというのが症状のはじまりな方が多い印象です。(あくまでも治療院に来る方の場合の印象です) もちろん上記の具合は非常に参考になります。 急性の痛みからの回復具合の目安となりますね。 【病態】 膝の曲げ伸ばしの角度によって膝への負担が変わります(個人差あり)。 下り坂、ジョギング、不整地、雨の日のランニングでは接地時の膝の曲げる角度が浅いため多発すると考えられています。 目安の角度は30度。 速いスピードのランニングでは接地時の膝の曲げる角度がより深くなるため、 腸脛靭帯炎にはなりにくいと考えられます。 ≪詳しく≫ 「基本的病態は腸脛靭帯が大腿骨外側上顆に擦れることにより生じる炎症とその間にある滑液包の炎症である。 腸脛靭帯は膝伸展位では大腿骨外側上顆の前方を走り、膝を屈曲していくとそれを乗り越え、30度屈曲位付近からは 大腿骨外側上顆の後方に位置することになる。 このため、膝30度屈曲位付近では腸脛靭帯後縁と大腿骨外側上顆の間で摩擦が生じる(impingement zone)速いスピードのランニングでは接地時の膝屈曲角度がより深くなり、impingement zoneを超えているため、腸脛靭帯の摩擦は少なくなり、腸脛靭帯炎にはなりにくい。 逆に下り坂、ジョギング、不整地、雨の日のランニングでは接地時の膝屈曲角度が浅くなるため多発すると考えられている。また腸脛靭帯炎のある患者でも膝を伸ばしたまま歩くとimpingement zoneに入らないため痛みが軽い。」 スポーツ外来(整形外科)/東京山の手メディカルセンターより引用 「腸脛靱帯は腸骨稜に発し、脛骨Gerdy結節に至る靱帯であり、この靱帯と大腿骨外側上顆との間で膝の屈伸に際して擦れあい摩擦を引き起こすのが腸脛靱帯炎である。 上記の結果、腸脛靱帯と骨膜が直接刺激されるか、または外側上顆直上の滑液包に炎症を生じて発症する。 陸上中長距離の競技者に多く、道路やトラックなどの関係で傾いた路肩やカーブの外側の脚に発症することが多い。」 スポーツ外傷・障害の基礎知識 腸脛靱帯炎より引用 【原因】 まとめると原因としては大きく以下の4つと私は考えています。 ・アライメント不良 (関節の位置関係のゆがみ) ・ランニングフォーム (オーバーストライドや過度のヒールストライクなど) ・リカバリー不足 (過度なランニング量・負荷。それによる栄養・休養不足) ・外的要因 (シューズ・硬い路面・下り坂など) 下記の記事でもそれぞれ表現は違いますが、腸脛靭帯炎の原因について解説をしています。 アライメント不良という視点では、 形態的な問題としてO脚(内反膝)が問題視されています。 過去に行われた検証では、腸脛靭帯炎と診断された16症例(男性13例,女性3例)を対象に下肢のアライメント測定を行ったところ,11例が内側上顆間に指幅2本分以上の距離を示していたと報告してます。 増島篤(1982)腸脛靭帯炎.整形・災害外科 腸脛靭帯炎は、腸脛靭帯(以下ITT)の緊張度・硬さ、膝内反・過回外足等のマルアライメント、靴や路面の変化、オーバーユーズ、不良なランニングフォーム等多くの要因がある。ITT・大腿筋膜張筋(以下TFL)は膝関節外側の静的・動的安定機構であり、ランニングなどの走動作で影響をうけやすい。 発生機序の異なる腸脛靱帯炎に対するアスレティックリハビリテーション:ハムストリングス機能不全に着目して 上記の文献では膝内反(O脚)の他に過回外足も問題であるとしています。 しかし以下の記事では過回内足が原因と述べられています。 相反するこの足の状態はどのような事なのでしょうか? 「ランナー膝を引き起こしてしまう主な原因は、足首が通常よりも内側に倒れていること。“過回内(かかいない)”、または“オーバープロネーション”とも言われる状態です。足首が内側に倒れこむことで膝も内向きになってしまい、それによって足の外側の腸脛靭帯が引っ張られてしまうのです。靭帯が引っ張られた状態のまま走ると、靭帯が膝とこすれてしまい、そのため炎症が起きてしまいます」 辛いランナー膝を卒業/ウィメンズヘルスより引用 踵の骨が外に倒れる回外足になると、外側に重心がかかりやすい状態となります。 O脚で膝が外に向くと腸脛靭帯がそれ以上外に行かないようにブレーキの役割を果たしますが、 その繰り返しによって膝の外側への刺激が増え発症します。 また着地する瞬間に地面から受ける衝撃を、骨盤回りのお尻の筋肉が支え切ることができないと、 骨盤が外側方向に逃げ、膝は内側に落ちて、つま先は外側へ向いてしまいます。 つま先が外側を向いてしまうこの足は過回内足の状態です。 踵の骨がどちらに傾いても(回内でも回外でも)腸脛靭帯炎になる可能性があるということです。 同様のことを以下の記事で述べています。 足首の柔軟性が乏しくつま先が外を向いた姿勢での走行フォームとなっている人、体幹や股関節の筋機能が低下し接地時に体が横方向に傾く走行フォームとなっている人は腸脛靭帯への過剰な負荷が生じるため、この障害を起こしやすいです。 腸脛靭帯炎のリハビリテーション 以下のブログでは走り方について言及しています。上記の記事とは視点が違い、過度に踵を接地することが原因であると述べています。 「多くの場合,腸脛靭帯炎は人工的な路面での下りや平地のランニング,オーバーストライドや過度のヒールストライクによって生じると考えられています。ほとんどの腸脛靭帯炎のランナーは,中殿筋と小殿筋(臀部を安定させる筋)と比べ大腿四頭筋が強すぎます。臀部が緊張を保てず,膝を横切る腸脛靭帯はさらに緊張を増し,よく見られる膝外側の痛みを生じます。」 腸脛靭帯炎 | STRIDE LAB BLOGより引用 【対処法】 対処法をまとめると以下のように私は考えています。 ①患部の炎症症状の改善(アイシング・物理療法・休養) ②膝関節機能の改善(膝関節アライメントの修正・筋機能改善) ③ランニング動作の改善(フォームの改善) ①は状態に応じてですが患部を休ませることは非常に大切です。 ②は使いすぎの筋肉を緩め、関節の位置関係を整えます。そして筋トレとはうまく機能していない筋肉に刺激を入れて使えるようにしていくことです。 歩行にもいい、ランニングにもいい【腓骨筋エクササイズ】3種 ③脚に負担のかかる走り方をしているという自覚も必要です。 時間のかかる作業ですが長く楽しんでいくためには私は必要なことと考えています。 この3つがベースとなる考え方でいいだろうと考えています。 ここではまず流れを理解していただくといいでしょう。 具体的な対処法については後程解説します。 下記に記事では手術は一般的ではないと述べています。 「オーバーユースのため保存療法が原則です。第1に局所の安静、つまり、ランニングの休止が重要です。次に、大腿筋膜張筋など股関節外側部を主としたストレッチの強化(トレーナー編参照)、アイシングを徹底します。さらに消炎鎮痛剤の投与や、超音波などの物理療法を行います。いったん症状が出現すると、簡単には消失しないので発症初期の決断、適切な休養期間が大切です。同一側の膝の負担を軽くする目的で、たまには普段と反対回りのトラック走行も取り入れてください。手術治療は報告例がありますが、あまり一般的ではありません。」 ランナー膝別名腸脛靭帯炎/ザムストより引用 下記の記事では、急性期、亜急性期、回復期と分類して解説しています。 また再発予防としてインソールの処方について述べています。 「1) 急性期 局所の安静、過剰負荷の除去、冷却などにより患部の炎症を取り去ることがまず必要である。 安静時痛、歩行時痛があるときは消炎鎮痛剤のパップ剤や経口剤を使う。急性期には腸脛靭帯と外側上顆の間にある滑液包にコルチコステロイド注射を行うこともあるが、副作用も考え慢性例に漫然と使う事には注意が必要である。 急性期には膝屈伸を伴う運動は避けるべきだが、手だけで泳ぐ水泳は場合によっては行ってもよい。 2)亜急性期 ストレッチングにより、緊張が増加した腸脛靭帯の柔軟性を獲得する。 3) 回復期 痛みがでない範囲で筋力訓練を始めていく。股関節の外側安定筋群と股関節外転筋群の強化をしていく。 痛みがなく筋力訓練ができるようになれば、ランニングを始めていく。再発防止を含め、回内足が強ければアーチサポートを使い、O脚が強いときはlateral heel wedgeを使う。」 スポーツ外来(整形外科)/東京山の手メディカルセンターより引用 下記の記事では、具体的な痛みのレベルについて解説しています。 「腸脛靭帯炎の治療は、(1)患部の炎症症状の改善、(2)膝関節機能の改善、(3)ランニング動作の改善の順に行います。ランニング動作の改善を行うにあたり、膝関節以外の治療が必要な場合は動作を改善する前に行います。走行中に疼痛がなく走行後に疼痛が生じる場合や走行中に疼痛はあるがパフォーマンスに影響がない場合は練習を継続しながら治療を行います。一方、疼痛により走行距離やスピードに影響が生じている場合や走行のみでなく階段など日常生活においても疼痛を感じる場合は、運動制限を設けての治療となります。」 腸脛靭帯炎のリハビリテーション/横浜市スポーツ医科学センターより引用 ただ調べてみると様々な考え方がありました。 面白かったのは相反する以下の2つの考え方。 ・インソールの処方 (オーバープロネーションの改善のため、その他) ・ランニングフォームの改善 (踵からではない足の接地の仕方。前足部か、足裏全体で接地する) インソールの使用は踵から着地する走り方を前提にした方へのアプローチ方法で ランニングフォームの改善は踵から着地をしない走り方を身に着けるということです。 さて、どちらがいいのでしょうか? 私は踵着地は足への負担をかけ続ける走り方と考えているので ランニングフォームの改善をお勧めしています。 お急ぎの場合はインソールは非常に有効な手段と考えます。 ただしインソールは考え方によりますが、 腰痛だった方が予防のためにコルセットをし続け外せなくなることと同じことです(不安で外せなくなる/腰の筋肉が衰える)。 インソールの場合は”悪い足に合わせて作成している”ため 足自体は悪いままと考えることができます。 もちろん修正の利かない状態の場合(脚の長さが違うとか、その他)には必要となります。 時間のある方は、ランニングフォームの改善を楽しむことを私はお勧めします。 ランニングにはそんな自分自身の体と向き合う楽しみ方もありますので。 内容については随時更新していきます。 学び、現場での経験も含めた話となりますので現在進行形の話となります。 宜しくお願い致します。 |
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